2024年の総括としてのAI画像生成関連情報
2024年もあと少しで終わっちゃうわけですが、本年も各CCアプリケーションの強化が図られました。細かいリファインもありましたがインパクトが大きいのはFireflyを軸としたAI生成系機能の強化です。
このようなAI生成に関しては世界の時流はどのような方向にむかっているのか、わたし達ユーザーはどのように対応していくのが適切なのかということは未だに明確には示されていません。
今回は、そこに付随してくる数々の法的、倫理的な問題について考察する材料にどのようなものがあるのかという事を紹介し、総括してみようと思います。
まずは知っておくべき情報について
国際的な法律・規制
1.WIPO
知的所有権に関しては各国間で締結された条約が根底にあります。そういった条約を管理するのがWIPO(World Intellectual Property Organization/世界知的所有権機関)で国連の専門機関の一つです。知的財産(Intellectual Property)に関する国際的な保護や制度の調和を目的として、1967年に設立されました。本部はスイスのジュネーブにあり、2024年現在で193の加盟国があります。
WIPO AI and Intellectual Property
https://www.wipo.int/about-ip/en/artificial_intelligence/
AIと知的財産に関するWIPOの公式リソース。AI生成物の著作権や特許に関する議論が掲載されています。
2.ベルヌ条約
ベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)は著作権の国際的な保護を目的とした条約です。1886年にスイスのベルンで採択され、以後複数回改正されながら現在も適用されています。この条約は、著作権保護に関する国際的な基準を提供し、多くの国での著作物の保護を可能にしています。
ベルヌ条約の主な内容
●著作権の自動的保護
無方式主義: 著作物は形式的な登録や表示を必要とせず、創作と同時に保護されます。
●相互保護
加盟国において、他の加盟国の著作物を自国の著作物と同様に保護することを義務付けています。これにより、ある加盟国で保護されている著作物は、他の加盟国でも同じように保護を受けられます。
●保護対象
文学的および美術的著作物が対象です。小説、詩、戯曲、音楽、美術、建築、映画、写真などが含まれます。保護されるのは具体的な表現であり、アイデアやコンセプトそのものは保護されません。
●著作権の最低保護期間
一般的に著作権の保護期間は、著作者の死後50年間とされています。ただし、加盟国ごとに延長が可能で、多くの国(EU諸国や日本)では70年に延長されています。
●著作者の権利
ベルヌ条約は、著作者の以下の権利を保証します:
経済的権利:著作物の利用により収益を得る権利(複製権、公衆送信権など)。
精神的権利(モラル・ライツ):著作物の著作者として認められる権利(氏名表示権)。
著作物の改変や名誉毀損的使用を拒否する権利(同一性保持権)。
● 制限と例外
ベルヌ条約では、教育目的や個人的な使用など、一部の目的において著作物の利用が許される場合もあります。
https://www.wipo.int/treaties/en/text.jsp?file_id=283698
特定の国や地域のガイドライン
AI生成については各国で議論が進んでいる途上です。
3.米国著作権局(US Copyright Office)
米国著作権局(U.S. Copyright Office)は、2023年3月16日に「Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence」を発表しました。このガイダンスは、AI技術の進展に伴い、AIが生成したコンテンツの著作権保護に関する明確な指針を提供することを目的としています。主なポイントは以下のとおりです:
人間の著作者性の要件:米国著作権法では、著作物として保護されるためには人間による創作性が必要とされています。したがって、AIが自律的に生成したコンテンツは、著作権保護の対象外とされます。
人間がAIツールを使用して作品を制作した場合、その作品が人間の創作性を十分に反映している限り、著作権保護の対象となります。ただし、AIが生成した部分については、著作権保護が認められない可能性があります。
著作権登録を申請する際、作品にAI生成の素材が含まれている場合は、その旨を明確に開示する必要があります。これにより、著作権局は人間の創作部分とAI生成部分を区別し、適切な判断を下すことができます。
https://copyright.gov/ai/ai_policy_guidance.pdf?utm_source=chatgpt.com
4.英国知的財産庁 (UK Intellectual Property Office)
コンピュータ生成著作物(Computer Generated Works, CGW)
イギリスの1988年著作権・意匠・特許法(Copyright, Designs and Patents Act 1988)第9条第3項では、人間の著作者が存在しないコンピュータ生成著作物に関して、作品の創作に必要な手配を行った者が著作者とみなされると規定されています。これにより、AIが生成した作品についても、適切な人間の関与があれば著作権保護の対象となる可能性があります。
AI and Copyright Issues
https://www.gov.uk/government/consultations/copyright-and-artificial-intelligence/copyright-and-artificial-intelligence
5.欧州連合 (EU)
著作権指令でAI生成物の位置づけに関するヒントを提供
EU Copyright Directive (Directive (EU) 2019/790)
https://eur-lex.europa.eu/
6.日本(文化庁)
AI と著作権に関する考え方について
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
AIとデータに関する倫理ガイドライン
7.OECD AI Principles
OECD AI PrinciplesはAIの開発・配備・利用における倫理的かつ責任あるガイドラインを提供する国際的な枠組みで、AIの持続可能な開発と利用を促進することを目的としています。
OECD Principles on Artificial Intelligence
https://www.oecd.org/going-digital/ai/principles/
8.モントリオール宣言
人工知能(AI)の開発と使用における倫理的ガイドラインを定めるために、2018年にカナダ・モントリオールで発表された倫理規範です。この宣言は、AI技術がもたらす利益を最大化しつつ、リスクを軽減し、倫理的で持続可能なAIの開発を促進することを目的としています。
https://www.montrealdeclaration-responsibleai.com/
9.アカデミックおよび法律研究
The Stanford Human-Centered AI (HAI)
https://www.thefuturescentre.org/signal/stanford-opens-the-first-human-centred-ai-institute/
https://aiindex.stanford.edu/report/
https://hai.stanford.edu/
Harvard Journal of Law & Technology (JOLT)
AI and Copyright Articles
https://jolt.law.harvard.edu/
MIT Technology Review
https://www.technologyreview.com/
業界団体およびベストプラクティス
10.Creative Commons
Creative Commons and AI
https://creativecommons.org/
AI生成物のライセンス選択に関するガイド。
11.Partnership on AI
Shared Resources
https://www.partnershiponai.org/
AI生成物に関する共有リソースと倫理的課題。
12.ツールやプラットフォームの利用規約
OpenAI (DALL-E, ChatGPT)
https://openai.com/policies/
OpenAIツールで生成されたコンテンツの権利に関するポリシー。
MidJourney
https://docs.midjourney.com/docs/terms-of-service
MidJourneyによる画像生成物の商業利用ガイドライン。
Stable Diffusion
https://stability.ai/
Stable Diffusionの使用条件や倫理ポリシー。
Adobe
https://www.adobe.com/jp/legal/licenses-terms/adobe-gen-ai-user-guidelines.html
Adobe生成AIユーザーガイドライン
以上、かなりのボリュームですが、トランスレーターを通してでも目を通しておく価値はあります。
さて、これらのドキュメントを眺めた上でAI生成と著作権についてざっくりとまとめていきます。
- AIによる生成物の著作権の扱い
USCO(米国著作権局)は、著作権は「人間による創作物」にのみ適用されるとの立場からAIによる完全自動生成物には著作権を認めないとしています。
英国では、自動生成物にも一定の著作権が認められる場合がありますが、著作権者として生成プロセスを指揮した人間が指定されます。
日本では、AI生成物は通常、著作権の対象外とされます。ただし、人間が創作プロセスに十分に関与した場合は、その部分に著作権が認められる可能性があります。 - AIの学習データに関する著作権問題
AIは大量のデータを学習してモデルを構築しますが、このデータが著作権で保護された作品である場合、法的問題が発生する可能性があります。
EUのデジタル単一市場に関する指令(DSM Directive)では、著作権のあるデータをAI学習に使用する場合、特定の例外を設けていますが、商業目的での使用には許可が必要な場合があります。
米国では「フェアユース」規定により、教育や研究目的での著作権保護データの使用が認められる場合もありますが、商業利用には慎重な判断が求められます。
日本では著作権法第30条の4の情報解析に関する条項により著作物の解析自体は許容されていると考えられ、著作物を学習する事自体は許容されているとされます。ただし、学習データ自体を生成に利用した場合の成果物に対して、原著作物に依拠していると認められる場合には著作権侵害が認められる場合があります。 - AI生成物の責任とライセンス
AIが生成したコンテンツが第三者の権利を侵害した場合、誰が責任を負うのかという問題が議論されています。通常は、AIを操作した人間や企業が責任を負う可能性があります。
多くのAI生成ツールは、生成物の利用条件をライセンスで明確にしています。たとえば、商業利用を許可している場合や、ツールの名称を明示する必要がある場合などがあります。 - 国際的なガイドラインと議論
国際的には、WIPO(世界知的所有権機関)を中心にAIと著作権に関する議論が進められています。ただし、統一的なルールの制定には時間がかかると予想されます。現状は各国が独自に規制を設けているため、国際的な商業活動では、利用国の法律を慎重に確認する必要があります。
以上、簡単にまとめました。
現状では多くの国や地域の著作権法では「アイデアに著作権は認められない」とされています。著作権が認められるのは「アイデアの表現」です。生成AIの生成過程を見ると「プロンプトによるアイデアの入力→入力に対する出力」という流れになっています。プロンプトはアイデアに過ぎず著作権が発生しないということになります。このプロンプト(アイデア)を入力すると、そのプロンプトをAIが解釈して出力が行われる。つまり、AIがアイデアに基づいて表現しているのであって、人間が表現おこなっているのではないということになります。著作権法は人間の創作者の権利を保護するように設計されています。したがって、AIによるアイデアの表現は著作権保護の対象とはなりえないということになります。
現状では、AI生成物の著作権や法的責任に関する取り扱いは、世界的に統一されていないため、利用目的や地域に応じて慎重に確認することが重要です。また、AI関連の規制は進化中であり、今後も変化が予想されます。
ということなんですが、Adobeのスタンスはこれらのリスクを回避するために最大限の注意が払われていると言えるでしょう。また、著作権侵害のリスクに対しても補償されるStock経由の仕組みが用意されていたりします。わたしたちユーザーもこまめに情報を仕入れつつ、リスクに対するこれらの仕組みをうまく利用しつつ安全に運用して頂けたらと思います。